世界ETF事情⑥

ETF規制の動向【世界ETF事情⑥】

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今回はETFの組成・運営に関わる規制について、アメリカを中心に最近の変化を交えて解説します。

ETFの組成に関する規制

アメリカではETFの新設にあたり、ファンド毎にSEC(証券取引委員会)から「1940年投資会社法」の適用除外(ファンドの純資産価格によらず市場価格で売買することなど)の承認を得る必要がありました。

しかし、SECは昨年新たなETF規則を制定し、一般の指数連動型ETF(レバレッジ型・インバース型、アクティブ運用型などを除くETF)について、個別承認を不要とする措置を導入しました。

この結果、業界は今まで個別承認を得るために要していた時間と費用(SECによれば平均221日、10万ドル)を節約できることとなりました。また従来はETFを設定していなかった業者の新規参入も容易になると期待されています。

なお、日本では投資信託法8条において投資信託の組成は金銭信託によることを原則としており、その例外として現物出資型ETFが認められています。そして組成可能なファンドを指数連動型に限定しているため、現在のところアメリカのようにアクティブ運用型を組成することはできません。

デリバティブ利用規制

デリバティブ取引は契約履行義務をともなうことから、アメリカでは従来、ETFを含む投信全般のデリバティブ取引を負債規制の一環として規制してきました。そしてデリバティブの種類・取引量が拡大する中で、SECは個別ケースに対応したノーアクション・レター(法令適用事前確認手続)の積み重ね等によりデリバティブ取引を規制してきました。このため、規制が継ぎはぎ状態となっていました。

そこでSECは投信全般のデリバティブ規制の一元化と強化をはかるため、2019年に新デリバティブ規則を提案しました。これは2015年に提案した規則の内容を修正して再提案したものです。

新規則案においては、①一般ファンドについて(イ)デリバリティブに関するリスク管理プログラムを作成してリスクを管理すること、(ロ)ファンドのバリューアットリスク※(VaR)をファンドの指定参照指数(S&P500等のいわゆるベンチマーク)のVaR の150%以内に収めるか、またはVaRの絶対値をファンド純資産の15%以内に収めることを要求しています。

また、②レバレッジ型およびインバース型のファンド(ETFを想定)について、連動対象指数の変動率に対する倍率を3倍以下に制限するとともに、リスク理解度の高い顧客のみに販売するよう求めています。

これに対しICI (米国投信協会)が、前述①(ロ)の150%、15%をそれぞれ200%、20%にすべきだ等の意見を提出するなど、新規則案の行方ははっきりしていません。なお、日本ではETFを含む投信全般のデリバティブ投資について、あらかじめ委託会社が定めた合理的な方法(簡便法、標準的方式、VaR方式のいずれか)により算出したリスク量がファンドの純資産総額を超えないこととされています。

※バリューアットリスク(VaR):現在保有している資産が、絶対金額としてどの程度、損失する可能性があるのか、過去の価格推移をもとに、統計的に測定する指標として用いられるもの。

その他のETF規制に関する議論

ETF規制について過去の経緯を振り返りますと、2010年前後からFSB(金融安定理事会)などが、世界的に拡大するETFについての問題提起を始めました。その内容は、主にETFによるデリバティブ取引や証券貸付にともなうカウンターパーティー・リスクの問題でした。しかし、その後これはETFに限った事柄ではない(投信全般に共通する問題である)ことの理解が進み、ETFに特化した規制は導入されませんでした。

そして、2015年頃からは、IMF(国際通貨基金)等により「オープンエンド型投信について、市場急変時などに大量解約の動きが出た場合に、投資家からの解約請求に応じられなくなるリスクや、組入れ証券が大量に売却され市場に悪影響を与える恐れがある」という流動性リスクの問題が提起されました。

これに対応して投信の規模が大きく世界金融市場への影響が大きいアメリカにおいては、SECが2016年10月にオープンエンド型ファンドについて新たな流動性規則(保有資産を流動性に応じ区分管理したうえ、高流動性資産の最低保有比率を設定し、非流動性資産の比率を15%以下とするなど)を制定しました。
しかし、現物引渡し(交換)の形で解約請求に応じるETFについては、一般ファンドとリスクが異なるとして、一般ファンドに適用する流動性規則の多くについて適用を除外しました。

日本でも、2020年4月に金融庁および投資信託協会がオープンエンド型公募投信の流動性リスク管理を強化する新たな規制の案を発表していますが、「株式等の現物資産を用いて設定・交換をおこなうもの」すなわち現物拠出・現物交換型ETFは対象外としています。

以上のように、国際的に「現物交換型ETFは、保有資産を現金化して解約に対応する一般ファンドに比べ流動性リスクが小さい」と理解されています。

(2020年6月作成)


元日本証券経済研究所特任リサーチフェロー

杉田 浩治

KOHJI SUGITA

野村證券投資信託委託(現・野村アセットマネジメント)企画部長・NY駐在員事務所長などを経て、2006年から2018年まで(財)日本証券経済研究所に勤務。2014年7月~2018年3月投資信託協会主任研究員。著書多数。

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