世界ETF事情⑬

史上最高の資金流入がつづくアメリカのETF【世界ETF事情⑬】

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世界のETF残高の7割を占めるアメリカのETFは、2021年に入って成長のスピードが加速しています。今回はアメリカのETFについて2021年上半期の動きを中心に最新事情をレポートします。

2021年上半期の資金流入額は前年同期比2.4倍

2021年1~6月のアメリカETFへの資金流入額(設定額から交換額を差し引いた額)は4,900億ドルに達し、前年同期(2,061億ドル)の2.4倍に増加しました。2020年は年間の資金流入額が5,000億ドルを超え史上最高となりましたが、今年は6ヶ月間で早くも2020年の年間実績に迫る勢いです。

流入額増加の理由としては、第一に株式市況の上昇(S&P500指数は半年間に14%上昇)が挙げられますが、その他の中期的要因として業界関係者は下記を挙げています。

①2019年頃から始まった株式・ETFの売買手数料無料化の影響
②コロナ禍により在宅時間が増えた中で個人が投資への関心を高める動きが続いている
③ETFの品揃えがアクティブ運用型・ESG特化型をふくめて一層充実したため、個人も機関投資家もETFをますます多様な用途(たとえば、戦略的および戦術的資産配分の実行、流動性の確保、デリバティブの代替など)に活用するようになっている

上記の資金流入に時価上昇が加わって、アメリカのETF残高は2021年6月末に6兆4,900億ドルとなり、2020年末に比べ1兆400億ドル、率にして19%増加しました。
なお、月別に資金流入の動きを見ますと図表1のとおりであり、2020年は後半に大きな資金流入がありました。2021年の後半がどうなるかは市況動向にもよりますが、バイデン政権下でキャピタルゲイン税の増税が提案されている中で、(非上場の従来型ファンドから)税のメリットがあるETF(注)への資金シフトは続くという見方が有力です。

(注)アメリカにおけるETFの税のメリットの詳細については本コラム②「ETFはなぜ成長しているか」をご参照ください)。

[図表1]アメリカETFへの資金流入額(期間2019年1月~2021年6月、月次)

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[出所] ICI統計より筆者作成

株式中心へ回帰(投資対象別の動向)

資金流入額の投資対象別内訳を見ますと図表2のとおりです。2020年は3月に株価が急落したこともあって、債券・コモディティが大きなウエイトを占め、株式の比率は5割程度でした。しかし2021年上半期は株価の安定的上昇を反映して株式へ投資するETFの割合が8割近くへ高まっています。

[図表2]資金流入額の投資対象別内訳(期間:2017年~2021年、2021年は1~6月実績)

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(注)上掲区分のほかバランス型があるため各年とも合計は100%にならない。
[出所] ICI統計より筆者作成

アクティブ運用型の新設が目立つ(新商品設定状況)

投資情報専門会社CFRAによりますと、2021年1-6月にアメリカでは200本のETFが新設され、前年同期の131本に比べ5割以上増加しました。 

2021年の新設ETFのうち3分の2はアクティブ運用型が占めており、この中には、かつてピーター・リンチ氏が高パフォーマンスを収めたことで知られるフィデリティ社のマゼランファンドのETF版も含まれています。また、ETFを新設した運用会社数は76社にのぼり、1937年創立の名門パトナム社などが初めてETFを設定するなど、従来型ファンドの運用会社がETFへ進出する動きが続いています。
2021年の後半も、ETF新設の動きは鈍化しないと見られており、フィナンシャルタイムズ紙は、SEC(証券取引委員会)が年内にもビットコインなど暗号資産(仮想通貨)へ投資するETFの上場を認める可能性があると述べています(注)。

(注)2021年7月13日付フィナンシャルタイムズ紙電子版記事 "" Pace of US ETF launches double in space of two years"

暗号資産ETF上場について決断を先延ばしするSEC

暗号資産ETFは、暗号資産に便利・手軽に投資できる金融商品として、既にヨーロッパやカナダなどで上場されています。しかし、アメリカでは8年前から暗号資産ETFの上場が何度となく申請されてきたにもかかわらず、証券監督機関のSEC(証券取引委員会)はまだ上場を認めていません。

その理由として、SECは数年前には「(ETFに限らず)ファンドがデジタル資産(商品のように物理的存在もなく、また証券のように特定の発行者もいない資産)へ投資することが妥当かどうか」といった問題を提起していました。しかし、デジタル資産の普及が進むなかで、そうした問題意識は後退し、現在は主に暗号資産の取引市場に係わる事柄、すなわち暗号資産の取引が十分な規制のもとで行われていないこと、市場における価格操縦や詐欺の恐れ、市場の流動性および透明性への懸念、などを問題点として指摘しています。
2021年初めに、SECの新委員長にゲンスラー氏が就任した際には、同氏がMIT(マサチューセッツ工科大学)でブロックチェーン・暗号資産について教えていたことから、業界はSECが暗号資産ETFについて前向きになるという期待を持ちました。しかし、その後、同委員長は議会証言の場で、暗号資産取引の規制についてSECができることは限られているとして、投資家保護の新たな枠組み作りが必要だと主張しています。また、SECはバイデン政権が重視するESG問題への対応などの優先課題を抱えていることもあり、暗号資産ETFの上場承認は来年以降になると見る向きも多い状況にあります。

(2021年8月作成)


元日本証券経済研究所特任リサーチフェロー

杉田 浩治

KOHJI SUGITA

野村證券投資信託委託(現・野村アセットマネジメント)企画部長・NY駐在員事務所長などを経て、2006年から2018年まで(財)日本証券経済研究所に勤務。2014年7月~2018年3月投資信託協会主任研究員。著書多数。

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