世界ETF事情

ヨーロッパETF市場は2030年に4.5兆ドルに拡大か【世界ETF事情⑲】

2024年6月28日作成

ETFの専門調査機関ETFGIによると、2024年5月末のヨーロッパETF市場の純資産総額(以下「残高」)は1.910兆ドルとなり、世界全体(12.624兆ドル)の15%を占めています。地元ヨーロッパでは、2030年にかけて残高が4.5兆ドルに成長するという見方があり、また、ドイツを中心に積立投資プランが拡大しています。

今回はヨーロッパETF市場の近況と今後の成長見通し、積立投資プランの概要などをレポートします。

ファンド数が多い市場

ヨーロッパETF市場の残高は、2023年末に至る5年間に図表1のように0.726兆ドルから1.729兆ドルへ2.4倍に拡大しました。一方、ヨーロッパは国や証券取引所の数が多いこともあってファンド数が多いことが目立ちます。

5年間のファンド数の増加率は24%(1,684本→2,095本)に止まり、残高の伸び率138%より非常に小さく収まったものの、2023年末の1ファンド当りの規模は8.25億ドルと計算され、世界全体平均の11.09億ドルより小さくなっています。

[図表1]ヨーロッパのETF残高、ファンド数、1ファンド当り残高の推移ヨーロッパのETF残高、ファンド数、1ファンド当り残高の推移

残高は2030年に4.5兆ドルを突破か

ヨーロッパETF市場の今後の成長について、二つの機関の見解を紹介します。

先ず、世界のETF市場関係者を対象に定期的に調査を行っているPwC(プライスウォーターハウスクーパース)は、2023年に実施した調査結果を2024年3月に発表しました※1。それによりますと、多くの回答者が2028年6月に世界のETF残高は19.2兆ドル以上に拡大し、その中でヨーロッパのETF残高は3.0兆ドル以上になると予測していました。

一方、大手会計事務所EY(アーンストヤング)のアイルランド法人は、2024年5月に「ヨ-ロッパETF市場は、今後5年間にわたって年率15%のペースで成長し、2030年までに4.5兆ドルに達する」との予測を発表しました※2。同社は、成長要因として①当市場への新規参入会社の増大、②アクティブ運用型ETFへの資金流入、③個人投資家の増大を挙げています。

※1 ETFs 2028: Shaping the future | PwC
※2 European ETF market forecast to grow 15% annually over next 5 years, reaching $4.5trn by 2030 | EY Ireland

個人の積立投資プランも拡大

前記のEY予測がヨーロッパETF市場の成長要因の一つとして挙げている「個人投資家の増大」に関連する事項として、2010年にドイツで始まった定期的投資プラン(Savings Plans、以下「積立投資プラン」)の拡大が注目されます。

このプランは、投資家がプラン提供会社に申し込んで、毎月など定期的に証券投資を行うもので、一般の投信・株式への投資も可能ですが、若年層を中心にETFが多く利用されています。

ブラックロック社の委託によりヨーロッパの投資情報ウェブサイトextraETFの調査部門(ドイツ・ミュンヘン)が行った調査レポート"The ETF Savings Plan Market in Continental Europe" (2023年秋発表) ※3によると、ヨーロッパにおける積立投資プランは図表2のように急拡大してきました。

2023年末の口座数は760万口座、2023年の年間投資額は150億ユーロ、2023年末の投資残高は2,000億ユーロと推定され、このうちドイツが口座数で710万、年間投資額で140億ユーロ、投資残高で1,350億ユーロを占めています。

このデータから1口座あたり投資残高を算出しますと、ヨーロッパ全体について2万6千ユーロ(1ユーロ160円で換算して416万円)程度、ドイツについて1万9千ユーロ(同じく304万円)程度と計算されます。

※3 European_Saving_Plan_Study_EN_XETF-20231017.pdf (extraetf.com)

[図表2]ヨーロッパの積立投資プランの拡大状況

ヨーロッパの積立投資プランの拡大状況

そして、同レポートは、このプランが今後ドイツ以外のヨーロッパ大陸諸国でも普及が進むと見込んでおり、5年後の2028年には口座数が3,200万(うちドイツが2,130万)、年間投資額は643億ユーロ(うちドイツが419億ユーロ)、投資残高は6,500億ユーロ(うちドイツが3,470億ユーロ)に拡大すると予想しています。この予想どおりになると、2028年にドイツ(人口8,400万人)では、4人に1人は積立投資プランを利用することになります。

積立投資プランの概要

前記extraETFレポートの解説などにより積立投資プランの概要を示すと次のとおりです。

プラン提供者

ネオブローカーと呼ばれる新興ネット証券をはじめとするネット証券のほか、ネットサービスを提供する銀行も参入しています(ヨーロッパでは銀行が証券業務も行うユニバーサルバンク制度を採用しており、一部の大手銀行でもこのプランを提供しています)。

最低投資額

1回の最低投資額は、ネット証券の場合で1ユーロ、銀行は10ユーロ・25ユーロなどとなっています。実際の1回平均投資額は、ある銀行の場合で120ユーロ(160円で換算して1万9千円)というデータがあります。

積立頻度

毎月のほか、隔月・四半期・半年毎、あるいは毎週・隔週も可能としている業者もあります。

手数料

毎回の取引手数料は多くのネット証券がゼロとしていますが、銀行では取引額の1.5%、あるいは2.5ユーロ+0.25%の例もあり、業者により差があります。

投資対象ETF

投資できるETFの数は業者により50本から2,000本まで大きく異なっています。実際に投資されているファンドを見ると、世界株式に投資するETF、新興国インデックスやNASDAQ100、ドイツ株指数(DAX)に連動するETFなどに人気があるようです。

メリット

ETFの積立投資を行う投資家のメリットとしては、簡単に分散投資できる、低コストであることのほか、小口資金でも効率よく投資できる(端数口数投資を可能にしている業者も多い)、投資タイミングを心配しなくて済む(ドルコスト平均法の効果も得られる)ことなどが挙げられています。一方、業者のメリットとしては、投資未経験者をふくむ新規顧客獲得の手段として有効であり、また、獲得した顧客と長期にわたって取引関係を維持できることなどが指摘されています。

(2024年6月28日作成)


元日本証券経済研究所特任リサーチフェロー

杉田 浩治

KOHJI SUGITA

野村證券投資信託委託(現・野村アセットマネジメント)企画部長・NY駐在員事務所長などを経て、2006年から2018年まで(財)日本証券経済研究所に勤務。2014年7月~2018年3月投資信託協会主任研究員。著書多数。

執筆者紹介と他記事はこちら

特集:<成長投資枠>新NISAに、新定番のETF
特集:新NISAの成長投資枠は高配当ETFが新定番!
特集:話題の半導体ETF、ついに上場。
ETFクイズ カズレーザーからの挑戦状

よく読まれている記事

記事カテゴリ