ETF投資のツボ

ETFを選ぶときにチェックすることは?

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市場には多種多様なETFが上場されています。その中からどのようにして最適なETFを選択すればいいのでしょうか?例えば信託報酬が最も低いものを選択するだけで本当に良いのでしょうか?

実は、ETFを一つの観点だけで選択することは、必ずしも投資家にとって最適なETFを選択することにはなりません。本稿では、最適なETFを選択する際のチェックポイントについて、専門的な内容も含め詳細に解説します。

まずは、以下に、ETFを選択するための主なチェックポイントをまとめてみました。
これを元に、項目ごとに説明していきます。


<ETF選択のための主なチェックポイント>

項目具体的な確認ポイントの例
投資対象資産クラス、投資戦略
運用手法現物(完全法・最適化法)、先物、シンセティック
コスト取引コスト、保有コスト
パフォーマンストラッキング・エラー、トラッキング・ディファレンス
残高ETFの残高、マザーファンドの残高
流動性出来高、スプレッド、デプス(板の厚み)
価格形成プレミアム・ディスカウント
プロバイダー(運用会社)情報開示、ビジネスコミットメント

投資対象

まずは、どのような資産にどのような投資戦略で投資を行いたいのかを事前に決めておく必要があります。海外の株式に幅広く投資したいのか、日本株のうち高配当のものだけに絞って投資したいのかなどを絞り込んでください。これができていないと目移りしてしまったり、意図しないリターンを出してしまう商品を選んでしまったりすることになりかねません。

例えば、「配当」に注目して投資するとしても、それが「高配当」、「配当の成長性」、「配当と自社株買いを含めた株主還元」のどれに着目するのかによってパフォーマンスは異なってくる可能性があります。

また、長期的に保有するつもりなのか、短期間での売買を想定しているのかについても考えておく必要があります。

運用手法

ETFの運用手法には、現物の株式や債券に投資する(完全法や最適化法という手法※が用いられます)だけでなく、先物を用いるものや、スワップなどを用いる(シンセティック型とよばれるETF)ものも存在します。それぞれの運用手法には良し悪しがありますが、意図しない運用手法ではないことは確認しておきましょう。

特にシンセティック型については、スワップの相手先の破綻リスクがどのように管理されているかを慎重に見極める必要があります。また、コモディティの先物に投資するETFは、先物の限月を乗り換える必要があり、一般的に目にする直近限月の先物価格で示されるコモディティ価格のリターンとは異なることが多いので注意が必要です。

※完全法と最適化法はインデックス運用の手法。完全法は、指数構成銘柄を構成比率どおりにファンドに組み入れ、指数のリターンを再現させる手法。最適化法は、指数構成銘柄のすべては保有せず、指数との高い連動性を目指す手法。

コスト

ETF投資のコストは大きく分けると、取引コストと保有コストに分けられます。
取引コストは、取引の際に証券会社に支払う売買手数料と取引所におけるスプレッドなどが該当します。

一方の保有コストは信託報酬の他にもインデックスのライセンスフィーや上場費用などがファンドから引かれています。保有コストがどのくらいなのかは最終的にファンドのパフォーマンスに影響します。

これらすべてを確認することはかなり困難なので、明示的になっている売買手数料と信託報酬を確認することが第一歩となるでしょう。重要なのは、長期保有目的であれば保有コストの重要性が増し、売買を頻繁に行うのであれば取引コストの重要性が増すということです。

パフォーマンス

ETFのパフォーマンス(うまく運用できているETFかどうか)は基本的には連動対象のインデックスとの乖離で計測します。乖離の計測方法には、「トラッキング・ディファレンス」と「トラッキング・エラー」があります。「トラッキング・ディファレンス」は、ETFとインデックスのパフォーマンスの差そのものです。コストを加味した上でファンドがインデックスに対してどのようなパフォーマンスだったのかを見る場合はこちらを用います。

一方、「トラッキング・エラー」は、「トラッキング・ディファレンス」の一定期間におけるブレの大小(標準偏差)を示したもので、ETFのインデックスへの連動性を図る指標です。

残高

ETFの残高も重要なポイントです。一般的にはファンドが大きければ大きいほどより効率的な運用が可能となります。逆に上場後かなりの時間が経っているのに残高が少ないETFについては、プロバイダー側のビジネス上の理由などから上場廃止となる可能性もあるため注意が必要です。

また、ETFによっては運用の効率化のためにマザーファンドへ投資していたり、合同ポートフォリオとして運用されていたりする場合もあります。この場合はETFの残高が少なくても、他のファンドの残高と合計したポートフォリオとして運用されているため一定の効率性が保たれています。

流動性

取引所で売買をする投資家の場合は、ETFの流動性も気になるところです。一般にETFの出来高ばかりに目が行きがちですが、スプレッドや板の厚み(デプス)にも注目してください。例えば、東京証券取引所のマーケットメイク制度の対象となっている銘柄であればマーケットメイカーによる積極的な板の提示がなされているはずです。

特に頻繁に売買をする想定で投資する場合は、市場の流動性は非常に重要な要素になるでしょう。

価格形成

上場市場でETFが正しい値段がついているのかどうかを価格形成といいます。基準価額や日中の推定価値であるiNAV(インディカティブNAV)と実際の市場価格との乖離をプレミアム・ディスカウントといいます。これは、ETFが実際に保有している証券の価値と、ETFの市場価格が乖離していないかを測る指標です。

基準価額やiNAVの評価時点の問題で乖離があるように見える場合もありますが、設定・解約のプロセスに問題があったりすると、この乖離が非常に大きくなることがあるため注意が必要です。

プロバイダー(運用会社)

ETFプロバイダーの情報開示やETFビジネスへのコミットメントなどについても、利用する投資ツールの提供者として信頼できるかどうかという視点で見ておくとよいでしょう。



これらすべての観点からETFを選択するのがあるべき論ではありますが、すべてを調べるのは非常に時間と手間がかかる作業です。そこで、重要となってくるのは優先順位です。

投資対象については外せない項目ですが、それ以外でいえば、例えば、長期投資を行うのであれば、保有コストやパフォーマンスの確認を優先的に行うべきでしょう。一方で、短期でのトレーディングを行うのであれば、取引コストと流動性の優先順位が高くなるはずです。

これらのチェックポイントがあることは認識したうえで、実際はETFの使い方によってチェックすべき優先項目を決めて、それを重点的に確認すればよいと思います。

(2022年2月作成)

野村アセットマネジメント
ETF事業戦略部部長

渡邊 雅史

Masafumi Watanabe

野村アセットマネジメントのETF事業を担当するETF事業戦略部を統括。
著書に『計量アクティブ運用のすべて』、『ロボアドバイザーの資産運用革命』(ともに共著、きんざい)、訳書に『ETFハンドブック』(きんざい)がある。

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