運用者の視点

日本企業の株主還元政策について:配当と自社株買い

2025年10月29日作成

 コーポレートガバナンス改革の進展や資本コストを意識した経営への転換等を背景に、日本企業の株主還元政策に対する関心が高まっています。今回は、企業の株主還元政策において配当と同様に重要視される自社株買いをテーマに考察していきたいと思います。

 まずは、配当について整理します。配当とは企業が事業を通じて稼いだ利益のうち、株主に分配される部分を指します。企業には利益を株主に分配する以外にも、事業への再投資や、有事に備えて内部留保する等の選択肢があります。事業環境が成熟し、将来の投資機会が限られる企業ほど配当の支払いが多くなる傾向があるとされます。企業による配当の支払いは、将来的にわたってキャッシュフローを創出する企業の自信を表すシグナルとなり得ることや、経営者が余剰な資金を収益性の低い事業に投資するといった資本規律の低下を防ぐ効果があること等から、市場ではポジティブに評価される傾向があります。

 続いては、自社株買いです。自社株買いは企業が発行した株式を市場から買い戻すことを指します。自社株買いは配当と同様に企業の株主還元政策の一つですが、投資家に現金が直接支払われる配当に対して、自社株買いは自社の株式の購入によって株価を支える間接的な株主還元です。購入した自社株が消却されて発行済株式数が減少すると一株当たり利益が増加することや、自社株買いは経営者が自社の株価が割安だと考えていることを示すこと等から、自社株買いについても市場からポジティブに評価される傾向があります。配当の支払いと比較して、自社株買いの実行は柔軟性が高いため、より機動的な株主還元政策として利用される傾向があります。

 それでは、日本企業の配当および自社株買いの推移について確認してみましょう。グラフはMSCI Japan IMI構成銘柄を対象に、過去1年間の配当および自社株買い総額の推移を示したものです。過去においては企業の株主還元政策の多くを配当が占めていたのに対して、足元では自社株買いの比率が高まっていることが確認されます。企業の株主還元政策において、自社株買いの重要性が高まっていると考えることができます。

配当および自社株買い総額の推移(単位:兆円)

 続いて、配当と自社株買いの株価リターンへの影響はどうでしょうか。グラフは、同様にMSCI Japan IMI構成銘柄を対象として、毎月、配当利回り※1上位20%の企業と自社株買い利回り※2上位20%の企業を選定し、株価リターンの平均値をMSCI Japan IMI構成全銘柄の株価リターンの平均値と比較しています。過去においては、配当利回りが高い企業、自社株買い利回りが高い企業のどちらも株価リターンは市場平均を上回って推移しており、企業の株主還元政策に着目した投資が日本株市場において有効に機能していたことが確認できます。

※1 配当利回り:過去3年間の配当金額 ÷ 時価総額
※2自社株買い利回り:過去3年間の自社株買い金額 ÷ 時価総額

配当および自社株買い総額の超過リターン(期間:06/05-25/03)

 最後に、株式投資において自社株買いを考慮する際のポイントについて考えたいと思います。以下のグラフは、配当利回りと自社株買い利回りについて、各企業の1年前の値と現在の値の相関を時系列に示しています。グラフからは配当と比較して自社株買いの相関が低いことがわかります。これは1年前の配当利回りが高い銘柄は現在も配当利回りが高い銘柄であり続ける傾向が強いのに対して、1年前の自社株買い利回りが高い銘柄は現在も自社株買い利回りが高い銘柄であり続ける傾向が相対的に弱いことを示しています。自社株買いは配当と比較して柔軟な株主還元政策であるため、今後も高い水準で自社株買いを行なうと考えられる企業に投資をする上では、過去の自社株買い実績を考慮するだけでは十分ではなく、各企業の事業の状況や資本政策の動向等から将来の自社株買いの可能性や持続性を評価することが重要であると考えます。

配当利回りと自社株買い利回りの自己相関(期間:06/05-24/03)

 また、経営者が短期的な利益目標を達成するために自社株買いを利用するケースや、投資家の注目を集めるために自社株買い枠を設定し、その後の自社株の購入が行なわれないケース等、自社株買いの負の側面について報告する研究も存在します。これらのことから、自社株買いは配当と比較して、その質や持続性を評価する上で、アクティブな投資判断を行なう余地が大きいと考えられます。

 過去の日本企業の株主還元政策においては、配当がその中心を占めていました。一方で、その傾向にも徐々に変化が生じつつあります。今後、企業の株主還元政策による恩恵を享受する上で、自社株買いも含めて総合的な株主還元政策を評価することがより重要になってくると考えています。「NEXT FUNDS 日本高配当株アクティブ上場投信(2084)」においては、企業の自社株買いも含めた総合的な株主還元政策を評価し、高配当株によるポートフォリオを構築しています。ぜひ高配当株投資の選択肢の一つとしてご活用いただけると幸いです。

<指数の著作権等について>
「MSCI Japan IMI指数」はMSCIが開発した指数です。同指数に対する著作権、知的所有権その他一切の権利はMSCIに帰属します。またMSCIは、同指数の内容を変更する権利および公表を停止する権利を有しています。

(関連銘柄)NEXT FUNDS 日本高配当株アクティブ上場投信(証券コード:2084)

(2025年10月29日作成)

野村アセットマネジメント

アクティブETFの運用者が、成長株投資や高配当株投資において、どのように考え、議論を重ねて投資をしているのかをお伝えします。

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