市場インデックスを超えて
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世界中で市場インデックスファンドの成長が続いています。市場インデックスへの投資が勧められる理由として、低コストであることに加えて、市場インデックスがCAPM(資本資産価格モデル)でいうところの市場ポートフォリオに近いことが挙げられます。ここで市場ポートフォリオとは、全ての資産を時価総額加重で保有するものであり、CAPMによると最も期待パフォーマンスが高いとされます。CAPMは1960年代に提案されたモデルですが、60年近く経過した今でも、ほとんどのファイナンスの教科書で最初に現れる定番の資産価格モデルです。
ただ、その後の実証研究を通じて、現在の学術界で資産価格モデルとしてCAPMを積極的に支持する声はほとんどありません。CAPMは市場ファクターへの感応度(市場β)のみを使用して様々な資産の期待リターンの高低を説明しようとしますが、市場βだけでは現実の市場を十分に説明できないのです。近年において、より標準的で支持者の多い資産価格モデルの一つにFama-French3ファクターモデル(以下、FF3モデル)があります。FF3モデルは市場ファクターに小型株ファクターとバリュー株ファクターを追加したものであり、これら3つのファクターへの感応度で市場を概ね説明できるとします。
小型株、バリュー株というと株価のゆがみを利用するアクティブ運用を思い浮かべる人がいるかもしれません。しかし、FF3モデルは株価のゆがみを論じているわけではありません。モデル提案者の一人Eugene Fama(ユージン・ファーマ)は、効率的市場仮説を中心とした業績でノーベル経済学賞を受賞(2013年)しており、アクティブ運用嫌いとしても知られます。このモデルが想定する世界では、市場を一貫して出し抜くことは不可能であり、投資家はリスクに応じたリターンが期待できると考えます。すなわち、小型株やバリュー株に投資すると、それらのリスクに見合った高いリターンを長期的・平均的に得られてしかるべきだということになります。
CAPMが現実の市場に合わないのであれば、市場インデックスへの投資にこだわる理由が一つなくなります。そこで、個人投資家の強みを生かして、流動性が低く少額の資金でのみ売買が可能な企業や、不景気の際に業績が悪化しやすい損益分岐点の高い企業などに投資を行ない、高いリスクに応じた高いリターンを期待することが考えられます。
FF3モデルでは、前者に小型株ファクター、後者にバリュー株ファクターが対応すると考えられることが多いようです。逆に潜在的なリスクを避けたいのであれば、ESG投資(企業の業績だけでなく、環境や人種などの問題にどれだけ取り組んでいるかを考慮する投資)が一つの指針となり得ます。
また、円高の際に業績が悪化しやすい輸出企業に勤務している投資家であれば国内を中心にビジネス展開をしている企業へ投資したり、東京に不動産を所有する投資家であれば東京以外を拠点とする企業へ投資したりすることで、個々の投資家が懸念するリスクを分散させることにも意味があるでしょう。
もちろん、市場は常に完全に効率的ではありませんし、投資家が常に合理的に行動していると考えることも現実的ではありません。例えば、他の投資家が恐慌状態に陥ったときに積極的に買い手に回ることで短期的に大きなリターンが期待できるでしょう。このようなタラレバを語ることはとても簡単ですが、実践して成功し続けることは決して簡単ではありません。
リスクを取ることでリターンが得られるという投資の原則にしたがって、より幅広い視点から投資を楽しむことを提案したいと思います。
実際の投資にあたって、分散投資(すべての卵を一つのカゴに入れない)を心掛けること、リターンを押し下げる要因になる運用コスト(ファンドであれば信託報酬や販売手数料などの総額)を抑えることも重要でしょう。
永田明(ペンネーム)
(2019年1月作成)