負けないためのETF投資戦略

国内上場の外国ETFにおける為替の影響【ETF投資戦略㉙】

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東京証券取引所に上場している外国株式や債券、REIT等のETF(以下「外国ETF」)は本数、残高共に増加傾向にある。個人や金融機関等の利用に加え、投信でもそれらを組み込んだものが増えている。投信では、通常の外国株式や外国債券に投資して、それらを円換算する場合、前日の終値に投信協会が当日発表するTTM為替レート※をかけて評価するのが一般的である。

一方、国内上場の外国ETFの場合、対象となるファンドそのものの基準価額はそれらと同様であるが、市場価格の評価は為替だけでみても15時の水準が関わってくる。それに加えて、原資産やその先物等が、東京市場と同じ時間帯に海外で取引されていたりすると、それらも影響して対象ファンドとの価格の乖離が生じる。

そこで、今回は、この為替に着目して、その特性を簡単に分析してみたい。

※TTM:金融機関が外国為替の取引を行う際の対顧客直物電信売買相場(telegraphic Transfer Middle Rate)の売り(Selling Rate)と買い(Buying Rate)の中間にある仲値(middle Rate)のこと。

為替はドル円を分析対象とする。図1に2019年以降のドル円レートの推移を示した。


図1 ドル円レートの推移(期間:2018年12月末~2022年8月18日、日次)

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注)三菱UFJ銀行の対顧客電信売買相場(TTM)仲値。直近は8月18日。

出所)NRI SuperFocusProよりウエルス・スクエアで作成。

2019年から2021年の夏頃までは、105~110円を中心に推移していたが、秋頃から円安が始まり、2022年には140円近くまで下落したことは記憶に新しい。

分析にあたり、一般的な投信を評価する際に使われるTTMレートと、東京外国為替市場の終値(17時、以下東京終値)の比較を行う。正確に言えば、投信協会は銀行各社のTTMレートを集めて発表している※が、ここでは三菱UFJ銀行のTTMレートを用いる。ETFは15時で取引が終了するため、東京終値を用いることは必ずしも正確ではないが、イメージをつかむため、利用することをあらかじめお断りしておきたい。

※投資信託財産の評価及び経理等に関する規則(第6章)

次に、その東京終値とTTMレートの乖離率の推移を示した。


図2 ドル円:東京終値とTTMレートの乖離率推移(期間:2019年1月4日~2022年8月18日、日次)

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注)乖離率=(東京終値/東京TTM-1)×100。直近は8月18日。

出所)NRI SuperFocusProよりウエルス・スクエアで作成。

これをみると、2022年に入るまでは、乖離率の幅は±0.5%以内に収まることが多かったが、円安が大きく進んだ2022年3月以降は、±1%を超える日が見られるようになった。そこで、ドル円のボラティリティを追加してみよう。


図3 乖離率とボラティリティの推移(期間:2019年1月4日~2022年8月18日)

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注)ボラティリティは、TTMレートの日次変化率の20日分より計算。√250倍して年率換算して表示。直近は8月18日。

出所)NRI SuperFocusProよりウエルス・スクエアで作成。

2022年に関しては、円安の進行と共に為替のボラティリティが上昇しており、それと同じタイミングで乖離率が大きくなっている。このため、投信に海外株式を組み込んで、前日の終値に当日のTTMレートで評価したものに対して、同じ対象資産の国内上場ETFを組み込んだ場合に大きな乖離が生じることになる。例えば、バランス型ファンドでインデックスのマザーファンドを組み込んだ場合と国内上場ETFを組み込んだ場合では価格に乖離が生じることがあるが、その原因の一つは為替の評価タイミングの違いである。これらの乖離が長期的に拡大しつづけることはないため、中長期的には影響がないものの、短期的な利用においては変動の違いを理解しておく必要がある。

最後に、具体例をみておこう。野村アセットマネジメント社が運用しているNEXT FUNDS外国債券・FTSE世界国債インデックス(除く日本・為替ヘッジなし)連動型上場投信(証券コード:2511)NEXT FUNDS外国債券・FTSE世界国債インデックス(除く日本・為替ヘッジあり)連動型上場投信(証券コード:2512)のETFが上場されているので、図4にそれらの乖離率のボラティリティを示した。投資対象となる原資産は共通であり、原資産の変動による影響は同じとみなすことができるので、その違いの多くは為替要因と考えられる。なお、残高規模は2022年8月18日現在で為替ヘッジなしが286億円、為替ヘッジありが988億円である。


図4 乖離率の標準偏差の推移(期間:2021年1月4日~2022年8月18日)

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注)乖離率=(ETFの市場価格終値/ETFのファンド基準価額-1)×100。分配金考慮後。標準偏差は、乖離率の20日分で作成。

出所)NRI Fundmark、Bloombergよりウエルス・スクエアで作成。

2511の外国債ヘッジ無ETFの方が、2512の外国債ヘッジ有ETFに比べて、2022年3月以降は、乖離率の標準偏差がより大きくなっていることが確認できる。同時期にユーロ円も安くなっていることを補足しておく。

今回は、為替の評価タイミングの違いによるETFの乖離率を見てきた。限定された範囲であるが、評価タイミングの違いによる乖離の可能性は確認できた。ETF市場の発展には、さらなる分析が増え、理解が進むことが期待されよう。


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(2022年8月作成)

ウエルス・スクエア
チーフ・アセットアロケーター

竹崎 竜二

RYUJI TAKEZAKI

1999年から野村アセットマネジメントにて、グローバルな資産配分や銘柄選択の投資手法、新商品の開発等に従事。2016年ウエルス・スクエアを立ち上げる。現在、チーフ・アセットアロケーターとして、ファンドラップ運用等に従事。著書多数。

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