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ETFのコストを深堀り!TER(総経費率)とは?【深堀りETF⑯】

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ETFの購入を検討する際、コストを気にされる方が多いのではないでしょうか。ETFを含むファンドのコストについては、信託報酬が思い浮かびますが、実際にはそれ以外の費用も発生します。
そこで今回は、信託報酬以外の費用も含めたETFの「TER(総経費率)」について探っていきます。

<ポイント>
  • ETFのコストを評価する際には、信託報酬率だけでなくTER(総経費率)の観点も重要
  • TER(総経費率)は海外では一般的な指標で、今後日本においても注目が高まる可能性
  • 信託報酬率が全く同じETFであっても、TER(総経費率)でみると違いが発生する

ETFのコストとTER(総経費率)

ETFのコストについては、ETFの費用と税金 | ETFの買い方・売り方 | NEXT FUNDSでも説明していますが、大きく「取引の際に発生するコスト」と「保有期間中に発生するコスト」の2つがあります。

<ETFのコストのイメージ>

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(出所)野村アセットマネジメント作成

取引の際に発生するコストとしては、証券会社が設定する売買委託手数料の他に、売値(アスク)と買値(ビッド)の差であるビッド・アスク・スプレッドが発生します。

一方、保有期間中には、信託報酬に加え、指数商標使用料、上場費用、監査費用、印刷費用等のその他費用が発生します。ETFの場合は、その他費用をファンドが負担するケースが多いことや、信託報酬が比較的低いこともあり、全体の費用に占めるその他費用の割合が多い傾向にあります。よって、ETFのコストを評価する際には、その他費用も考慮することが重要です。

信託報酬とその他費用を合わせた費用を、それらの費用が発生した期間の平均純資産残高で除したものが、TER(総経費率)です。

TER(総経費率)=(信託報酬+その他費用)÷ 費用が発生した期間の平均純資産残高

TERはTotal Expense Ratioの略で、海外では、ファンドのコストを評価する際に、TER(総経費率)を用いることが一般的です。日本では、投資信託協会が交付目論見書にファンドの「総経費率」を記載するように細則の改定を行っており*、基本的には2024年4月からTERが記載されることになります。よって今後は、日本でも信託報酬だけでなく、その他費用も含めたTER(総経費率)への注目が高まっていくと考えられます。
*投信協会規則改正(「交付目論見書の作成に関する規則に関する細則」第6条②(ウ))

TER(総経費率)を把握する方法

ETFはファンドで発生した費用情報が掲載されている決算短信を開示しているため、この情報をもとにTER(総経費率)を算出することが可能です*。

ETFの決算短信をみてみると、「損益及び剰余金計算書」というものが掲載されており、一般的に以下の図にあるような勘定科目が並んでいます。
*TERは国などによっていくつかの定義が存在しているため、ここで紹介するものはあくまで一例となります。

<ETFの決算短信における損益及び剰余金計算書に掲載されている勘定科目>

ETFの決算短信における損益及び剰余金計算書に掲載されている勘定科目

(出所)野村アセットマネジメント作成

ここでいう営業費用の中の「受託者報酬」と「委託者報酬」が信託報酬に当たります。そして、「その他費用」が、指数商標使用料、上場費用、監査費用、印刷費用などが含まれたものです。ちなみに、「支払利息」は、コール市場での運用におけるマイナス利息の支払いやファンドが行う貸株取引における受入担保金に係るマイナス利息の支払いなどが計上されているのですが、そもそも金額が小さく影響度が低いため、TER(総経費率)を計算するうえで今回は考慮しません。

決算短信における受託者報酬と委託者報酬、その他費用がその決算期間において発生したファンドの保有コストとなり、これを同じ決算期間におけるファンドの純資産残高の平均で除したものがTER(総経費率)となります。式で表すと以下の通りです。

TER(総経費率)=(受託者報酬+委託者報酬+その他費用)÷ 決算期間における日次の平均純資産残高

ファンドの純資産残高の平均については、各運用会社がCSVファイル等で純資産残高の過去データを開示しているのでそれらを使うことで算出できます。この際、決算短信における決算期間と同じ期間での日次の平均純資産残高を算出します。また、信託報酬は365日ベースで計算されているため、営業日以外については前営業日の数字を引き延ばして算出するとより正確なものになります。

ただし、以上の方法で算出されたTER(総経費率)はあくまで決算期間における数字のため、例えば信託報酬率を期中で変更している場合は、最新時点の信託報酬率が1年間寄与したTER(総経費率)とは異なります。また、決算短信における受託者報酬と委託者報酬には、ファンドがパフォーマンス向上のために有価証券の貸付(レンディング)を行っていた場合、それらから得る品貸料が一部計上されているため、TERがその分大きくなってしまう点には注意が必要です。

上記をもとに、例えば同じベンチマークに連動する類似のETFについてTER(総経費率)を算出してみると、ETFによってばらつきが大きいことがわかります。例えば以下のETFのTER比較のイメージにあるように、信託報酬率が全く同じETFであってもTER(総経費率)でみると違いが生じていることや、あるETFが他のETFより信託報酬率が多少高い場合であっても、TER(総経費率)でみるとむしろ低いケースも存在します。

<ETFのTER比較のイメージ>

銘柄コード銘柄名

純資産残高
(億円)

TER
<①+②>
(bps)

信託報酬
<①>
(bps)

その他費用
<②>
(bps)

●●●●XXX上場投信10,00013.010.03.0
▲▲YYY上場投信2,00014.510.04.5
××××ZZZ上場投信40014.58.56.0

※数値は例示であり、現実のものではありません
(出所)野村アセットマネジメント作成

その他費用については、ファンドの純資産残高が大きい方がその値が低い傾向にあります。これはその他費用については、純資産残高の増加に伴い低減する費用や金額が変動しない固定費用が含まれているためです。よってファンドの純資産残高の大きさはコストの観点からも重要になります。

ETFを選択するうえでは、信託報酬率のみならずその他費用についても着目し、TER(総経費率)で判断することも一考に値するでしょう。

(2023年6月5日作成)

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