深堀りETF㉒

ETFのパフォーマンスを評価!インデックス運用編【深堀りETF㉒】

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インデックス型ETFのパフォーマンスを評価する際には、トラッキング・エラーとトラッキング・ディファレンスという指標がよく使われます。今回は、これらの指標の意味や考え方について解説します。

<ポイント>

  • インデックス型ETFのパフォーマンスを評価する指標には、トラッキング・エラーとトラッキング・ディファレンスがある
  • いずれもベンチマークである指数との乖離を表す指標であり、ファンド運用で発生するコストや運用の巧拙などにより、ファンド毎に違いが生じる
  • ファンドがベンチマークに対してどのようなパフォーマンス(リターン差)だったのかを見る場合はトラッキング・ディファレンスを、ファンドのベンチマークへの連動性を見たい場合は、トラッキング・エラーを用いるとよい
  • ETFのパフォーマンスは、信託報酬のみならず他の要因によって差がつくこともある

トラッキング・エラー、トラッキング・ディファレンスとは?

インデックスファンドのパフォーマンスを評価する指標として目にすることが多い指標のひとつに「トラッキング・エラー」があります。トラッキング・エラーとはファンドのリターンとベンチマークのリターンとの乖離のブレを示すリスクの尺度で、ベンチマークである指数への連動性を図る指標です。具体的には、一定期間におけるファンドのリターンとベンチマークのリターンの差の標準偏差(データのばらつき度合)で表します。アクティブ運用の世界ではアクティブ・リスクと呼ぶこともあります。

一方、トラッキング・ディファレンスは単純にファンドのリターンとベンチマークのリターンの差のことです。コストや運用の巧拙を加味した上でファンドがベンチマークに対してどのようなパフォーマンス(リターン差)だったのかを見る場合はこちらを用います。アクティブ運用の世界では、これをアクティブ・リターンや超過リターンなどとも言います。なお、上述からもわかる通りトラッキング・ディファレンスの標準偏差がトラッキング・エラーとなります。

トラッキング・エラーとトラッキング・ディファレンスは、いずれもベンチマークとの乖離を表す指標であり、乖離に影響を与える要因としては主に以下があげられます。

①信託報酬およびその他費用
ファンドを運用する上では信託報酬やその他費用が発生しますが、ベンチマークとなる指数にはこれらの費用は含まれていないため、これらの費用は乖離が発生する要因となります。ファンドの費用を表す指標としては、TER(総経費率)があげられますが、これが大きいファンドほど乖離が拡大する可能性が高まります。TER(総経費率)は、信託報酬のみならず、指数商標使用料や監査費用、上場費用、印刷費用等が含まれます。

TERに関する詳細記事はこちら:ETFのコストを深堀り!TER(総経費率)とは?

②レンディング収益
いくつかのETFでは保有する有価証券についてレンディング(有価証券の貸付取引)を行っています。レンディングによって追加的な収益を獲得することで、ファンドパフォーマンスが向上する可能性があります。一方、指数との乖離という意味では、レンディング収益はトラッキング・エラーやトラッキング・ディファレンスの発生要因ともなります。ただし、レンディング収益によって①の運用管理コスト等を補い、マイナスのトラッキング・ディファレンスをプラス方向に改善させているとも言えます。

レンディングに関する詳細記事はこちら:レンディング(有価証券の貸付取引)とは?

③設定・解約費用(信託財産留保額)
設定・解約費用(信託財産留保額)は、ファンドに設定・解約があった際、ファンド内での有価証券等の売買に伴い発生する取引コストをカバーするための費用です。設定・解約費用(信託財産留保額)は設定・解約を行った受益者から徴収しファンドが享受するため、ファンドの基準価額を押し上げます。また、設定・解約費用(信託財産留保額)が取引コストの水準と同程度であれば、指数との乖離の発生は抑制されることになります。

設定・解約費用(信託財産留保額)に関する詳細記事は以下:
ETFのコストを深掘り!設定・解約費用はなぜ必要?①
ETFのコストを深掘り!設定・解約費用はなぜ必要?➁

④運用の巧拙
インデックス運用のファンド・マネジャーによる運用の巧拙も乖離要因のひとつです。例えば、指数構成銘柄の入れ替え時などにリバランスを実行する際、執行方法を工夫して取引コストの低減を図ったり、組入れ銘柄のコーポレート・アクション(企業の合併・買収、スピンオフ等)が発生した際に、適切な運用を選択することで、乖離を抑えられる可能性があります。インデックス運用においては、運用を工夫することで生み出される付加価値をパッシブαと呼ぶこともあります。

トラッキング・エラー、トラッキング・ディファレンスでの評価

以下の表はトラッキング・エラーとトラッキング・ディファレンスについて同じ指数に連動する類似のETFで比較したイメージになります。

トラッキング・ディファレンスはいずれもマイナスの数値となっていますが、これは上述の通りファンド運用には運用管理コストなどが発生するため、ファンドのリターンが指数のリターンに対して若干劣後していることを意味しています。よって、この場合は絶対値の小さい方がトラッキング・ディファレンスは良好といえます。一方、トラッキング・エラーについては過去250日のトラッキング・ディファレンスの日次のデータを基に年率化した標準偏差を表しています。トラッキング・エラーについては数値が低い方が良好といえます。

ここでは仮の数字を置いていますが、一番上のETFはトラッキング・ディファレンス、トラッキング・エラーともに良好で、総合的なパフォーマンスが最もよいといえます。上から2番目と3番目のETFを比較すると、トラッキング・ディファレンスは上から2番目のETFの方が良好ですが、トラッキング・エラーは3番目のETFの方が良好なことがわかります。このように、類似のETFであっても、トラッキング・ディファレンスとトラッキング・エラーには、違いが生じます。

<トラッキング・エラーとトラッキング・ディファレンスの比較イメージ>

銘柄コード銘柄名トラッキング・ディファレンス

トラッキング・エラー
(過去250日)

過去3か月過去6か月過去1年
●●●●XXX上場投信-0.050%0.090%-0.180%0.033%
▲▲▲▲YYY上場投信-0.049%-0.095%-0.190%0.085%
××××ZZZ上場投信-0.100%-0.210%-0.420%0.065%

※数値は例示であり、実際のものではありません。

(出所)野村アセットマネジメント作成

以下の表は、同じ指数に連動するETFについて、それぞれトラッキング・ディファレンスの要因分解をイメージしたものです。主に信託報酬とその他費用から構成される「TER(総経費率)」と「その他要因」から構成されています。トラッキング・ディファレンスの水準は、一番上のファンドが最も良好です。信託報酬は0.13%と最も高くなっているものの、その他費用(指数商標使用料、上場費用、印刷費用、監査費用等)が0.03%と最も低いことに加え、その他要因としてレンディングや最良執行による取引コスト圧縮といった運用の工夫の結果、0.01%プラスに寄与していることが理由です。この例のように、信託報酬以外の要因でパフォーマンスに差が生じているケースも多くみられます。

<トラッキング・ディファレンスの要因分解イメージ>

銘柄コード銘柄名基準価額リターン
(分配金込み)
指数リターン
(配当込み)

トラッキング・

ディファレンス
①-②
トラッキング・ディファレンスの要因分解
TER(総経費率)その他要因
信託報酬その他費用
●●●●XXX上場投信7.35%7.50%-0.15%-0.13%-0.03%0.01%
▲▲▲▲YYY上場投信7.32%7.50%-0.18%-0.11%-0.06%-0.01%
××××ZZZ上場投信7.29%7.50%-0.21%-0.10%-0.08%-0.03%

※数値は例示であり、実際のものではありません。

(出所)野村アセットマネジメント作成

以上のようにトラッキング・エラーとトラッキング・ディファレンスは、いずれもETFのパフォーマンスを図る指標ですが、意味合いが異なります。コストや運用の巧拙を加味した上でファンドリターンとベンチマークである指数とのリターン差を見る場合は、トラッキング・ディファレンスを用います。一方、ファンドがベンチマークの動きとずれるリスク(ベンチマークへの連動性)を見たい場合は、トラッキング・エラーを用いるとよいでしょう。

ETFのパフォーマンスは信託報酬のみならず他の要因で差がつくこともあります。同じ指数に連動するETFを比較する際には、パフォーマンスの観点からトラッキング・エラーやトラッキング・ディファレンスといった指標にも着目してみてはいかがでしょう。

(2023年10月19日作成)

野村アセットマネジメント

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