ETF投資のツボ

堅調な日本株を買い支えているのは?

2023年6月16日作成

今年(2023年)に入ってから日本株の堅調さが目立っています。日本市場については、緩和的な金融政策の継続、低PBRの改善への機運の高まり、ウォーレン・バフェット氏のバークシャー・ハサウェイ社による商社株への投資など、いろいろな話題が出てきています。ただし、株価が上がるためには誰かがこういった話題を加味したうえで株式市場に資金を振り向けなければなりません。本稿では、最近の日本株上昇の立役者が誰なのか、ETFへの資金流入の視点も含めて見てみたいと思います。

年初来で堅調な日本株

2022年12月末で26,393.04だった日経平均株価は、2023年5月末時点で30,887.88まで4,000ポイント以上上昇しました。この期間の日経平均株価およびTOPIXのパフォーマンスは現地通貨ベースでは米国株の代表的指数であるS&P500を上回っています。

<図1:日米株価指数の推移>

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期間:2022年12月末~2023年5月末、日次
2022年12月末を100として指数化したもの、現地通貨ベース、すべて配当込み指数

出所:Bloombergのデータをもとに野村アセットマネジメント作成

日本の株式市場が堅調な理由はいくつか考えられますが、まずは、植田日銀新総裁が緩和的な金融政策のスタンスを原則維持する方向性を見せたことや、東京証券取引所が資本コストや株価を意識した経営を促す要請を行なうなど、政策面での後押しがありました。また、ウォーレン・バフェット氏のバークシャー・ハサウェイ社による5大商社株への投資が大きな話題となり、日本株の見直しの機運が高まりました。

それに加えて、コロナ対策の正常化に伴う訪問外国人による消費拡大(いわゆるインバウンド消費)への期待なども株価を後押ししたと考えられます。また、この間の円安や好調な企業業績も当然要因の1つでしょうし、アジアの中で他国よりも政治的に安定しているということの再評価もあったのかもしれません。この手の話題は枚挙に暇がありませんので、このあたりにしておきます。

誰が日本株を買っているのか?

では、誰が実際は日本株を買っているのでしょうか?東京証券取引所の投資部門別売買状況のデータからその傾向が見えてきます。

<図2:投資部門別株式売買状況:売り買いの差し引き(東証プライム)>

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期間:2023年1月~2023年5月、月次、単位:億円
出所:東京証券取引所のデータをもとに野村アセットマネジメント作成

図2は東京証券取引所の売買状況のデータ(売り買いの差し引き)です。

これを見てみると、2023年3月は海外投資家が大きく売り越していますが、4月、5月は大きく買い越しに転じていることがわかります。そして、それと対照的なのが個人投資家です。個人投資家は4月、5月と売り越しており、海外投資家の買いに対しての売り方になっていることがわかります。この間、株価が堅調だったことを鑑みると、個人投資家は益出しに回ったと言えるかもしれません。また、この間は投資信託や年金を運用している信託銀行も売りに回っていますので、海外投資家の買いに対して、国内投資家の売りという構図が見て取れます。

日本株ETFのフローからも見られる海外投資家の日本株買い

図2は東京証券取引所で直接株式を売買している投資主体のデータですが、ETFの投資家の動向を見るために、世界中に上場している日本株のETFへの資金流出入を見てみましょう。

<図3:日本株ETFへの累積資金フロー>

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期間:2022年12月末~2023年5月末、日次
出所:Bloombergのデータをもとに野村アセットマネジメント作成

図3は東京証券取引所に上場しているものに限らず、世界中に上場している日本株ETFへの資金フローを見たものです。これを見ると気が付くのが、4月あたりから米国籍や欧州籍の日本株ETFへの資金フローが堅調に増えてきていることです。このことは図2の東京証券取引所の投資部門別売買状況のデータとも整合的です。基本的には米国籍ETFは米国投資家が、欧州籍ETFは欧州投資家が主に利用していると考えられるので、欧米の投資家が日本株に投資し、資金の一部はETFを経由していることがわかります。

一方で、図3の日本籍のETFは資金フローの出入りが大きく方向感が安定していないように見えます。ETFの動向からも、国内投資家は海外投資家によって株価が上がったところで資金を引き揚げている様子が伺えます。

日本株を長期的に買い続ける投資家は出てくるのか?

どうやら今回の株高は海外投資家の資金が非常に強く影響を与えているようです。それに対して日本の投資家が売りに回っているという状況は、海外投資家の方が、国内にいる我々日本人よりも日本のことを評価しているからかもしれません。

本来であれば日本の投資家が日本株に長期的に投資していくのが理想だと思います。ただ、長きにわたるデフレ環境と、どうしてもレンジで動いているように見えてきた日本の株式市場は、「下がったら買うけど、上がったらすぐ売る」という投資家の行動を促してしまうのかもしれません。

しかし、変化の兆候はあるのではないでしょうか。デフレの環境は一変し、インフレに向かう気配は様々なところで感じられるかと思います。また、来年より開始される新たなNISA制度は、株式市場に対して長期に投資する個人投資家を呼び込むための呼び水となるかもしれません。

今回の株高は海外投資家によるものである可能性が高いですが、今後は日本の投資家(さらにいうと個人投資家)による継続的な買いが演出する株高を期待したいところです。

<関連銘柄>
NEXT FUNDS TOPIX連動型上場投信(証券コード:1306)
NEXT FUNDS日経平均高配当株50指数連動型上場投信(証券コード:1489)
NEXT FUNDS S&P 500 指数(為替ヘッジなし)連動型上場投信(証券コード:2633)
NEXT FUNDS S&P 500 指数(為替ヘッジあり)連動型上場投信(証券コード:2634)

(2023年6月16日作成)

野村アセットマネジメント
ETF事業戦略部部長

渡邊 雅史

Masafumi Watanabe

野村アセットマネジメントのETF事業を担当するETF事業戦略部を統括。
著書に『計量アクティブ運用のすべて』、『ロボアドバイザーの資産運用革命』(ともに共著、きんざい)、訳書に『ETFハンドブック』(きんざい)がある。

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