世界ETF事情⑰

成長著しいアジアのETF市場【世界ETF事情⑰】

2023年10月12日作成

ETFは、アメリカを中心に成長が著しいことは良く知られていますが、近年アジアでもETFが拡大しています。

今回はアジアのETF市場の近況についてレポートします。

台湾ではETFを国民1人あたり61万円保有

アジア主要国のETF残高を23年6月末現在で比較しますと図表1のとおりです(国別残高について公式データを得られる国際投資信託協会の発表統計によりました)。

日本のETF残高は72兆円とアジアの中で圧倒的に大きいですが、日銀保有分を除くと約12兆円と推計され、中国、(36兆円)、台湾(14兆円)の方が大きくなっています。

そして人口の差を修正したETF普及度を見る意味で、ETF残高を人口で割った一人当りの保有額を計算すると、台湾が61万円、韓国が21万円となり、日本の10万円弱の6倍、2倍以上となっています。


[図表1]アジア主要国のETF残高(23年6月末現在)

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中国・韓国はファンド数が多い

各国のETFのファンド数と1ファンドあたり残高を比較しますと図表2のとおりです。

中国・韓国のファンド数は、それぞれ809本、712本と日本の3倍程度に達しています。したがって1ファンドあたりの残高は、日本の470億円(日銀保有分を除いて推計した場合)より小さくなっています。これに対し、台湾、インドは相対的にファンド数が少なく、1ファンドあたり残高はそれぞれ640億円、570億円と日本を上回っています。

[図表2]アジア主要国のETFのファンド数と1ファンドあたり残高

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台湾はETFの残高が従来型ファンドより大きくなった

次に、各国の公募長期投信(MMF以外のファンド)市場について、全体(ETFと非上場の従来型ファンドの合計)に占めるETFの割合を計算すると図表3のとおりです。参考として、アメリカおよび世界全体の状況も付記しました。

台湾はETFの残高が既に従来型ファンドを上回っており、ETFの発達度がアジアの中で飛び抜けて高くなっています。一方、日本は日銀保有分を除くと、公募長期投信全体に占めるETFの比率は11%で、アジア諸国やアメリカはもとより、世界全体の平均値よりも低い状態にあります。裏返せば、日本におけるETFの今後の潜在成長性が高いと言えましょう。

[図表3]公募長期投信のETFと従来型ファンドの残高比較
(23年6月末現在、単位:百万ドル)

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なお、台湾については、ファイナンシャルタイムズ紙の伝えるところによると、最近ETFの高分配競争が繰り広げられており、規制当局が"earnings equalisation mechanisms"(日本の追加型株式投信における収益調整金に相当する仕組み)を使った多額分配にメスを入れようとしているとのことです(注)。
(注) Sinyl Yu " Taiwan to crack down on payout mechanism for high-dividend ETFs" Financial Times 電子版 SEPTEMBER 13 2023

本コラム第2回「ETFはなぜ成長しているか【世界ETF事情②】」の「アメリカでは税のメリットもある」でも指摘しているように、投資家の節税意識が高いアメリカでは分配金が少ないこと(それにより、投資家は納税をファンド売却時まで繰り延べる度合いを高められること)がETFのメリットとして認識されています。しかし、アジアでは日本の毎月分配型ファンドをふくめ、高分配ファンドに一定の投資家ニーズがあるようです。

成長率はインドも高い

次に最近のETF成長度を見る意味で、約5年前の18年末と直近の残高を比較すると図表4のとおりです。

世界のETFは5年弱の間に100%を超える成長を遂げましたが、アジア諸国のETFはさらに驚異的なペースで拡大しています。成長率は台湾のほか、インドも(規模がまだ小さいこともあって)300%を超えています。

こうした中で、日本は日銀保有分を除くと2割以下の成長に止まりました。これには円安の影響もあり、円ベースでは56%成長しています。しかし、それでも他の国に比べると低成長であったことに変わりありません。逆に、これからの伸びしろが大きいと見ることもできましょう。

最後に、今後のアジアETF市場の見通しを紹介します。大手コンサルティング会社PwCは、世界のETF運用会社を中心とする業界関係者を対象として22年に調査を行い、その結果をまとめたレポート("ETFs 2027:A world of new possibilities")を23年3月に公表しました。これによりますと、回答者の多数が世界全体のETF残高は(22年6月の8.6兆ドルから)5年後の27年6月に15兆ドル以上へ1.7倍以上に増加すると予想していました。そしてアジア太平洋地域の関係者の多くは、この地域のETF残高が(22年6月の1.0兆ドルから)27年6月に2.5兆ドルへ2.5倍に増加すると予想しています。

アジアのETF市場は今後も大きく成長すると期待されます。

[図表4]ETFの成長実績

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(2023年10月12日作成)


元日本証券経済研究所特任リサーチフェロー

杉田 浩治

KOHJI SUGITA

野村證券投資信託委託(現・野村アセットマネジメント)企画部長・NY駐在員事務所長などを経て、2006年から2018年まで(財)日本証券経済研究所に勤務。2014年7月~2018年3月投資信託協会主任研究員。著書多数。

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