世界ETF事情⑤

アメリカにおけるETFのコストをめぐる動き【世界ETF事情⑤】

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ETFの狭義のコストとしては、①売買手数料、②ファンド経費(日本でいえば信託報酬)があり、その他に広義のコストとして、③売買値段の開き(スプレッド)や、④市場価格のファンド純資産価値(NAV)からのかい離(ディスカウントまたはプレミアム)の変動を含む場合があります。

これらの概要については、当ウェブサイト「ETFゼミ→ETFの基本」において説明されていますので、今回はETFのコストをめぐるアメリカの最近の動きや話題を取り上げます。

株式ETFの平均経費率は従来型の株式インデックスファンドより高い

アメリカにおける株式インデックスファンドの経費率について、2018年現在のETFと従来型ファンドの状況を比較すると別表のとおりです(参考までに残高とファンド数などのデータも掲載)。

株式ETFの単純平均経費率は0.49%、ファンド資産額で加重した平均経費率は0.20%です。これを従来型のファンドと比べると、単純平均ではETFの経費率が低い一方、加重平均では従来型のファンドの方が低くなっています。

加重平均で見ると従来型ファンドの経費率がETFより低い理由は、従来型ファンドの投資資金が低コストファンドへ集中している(特にバンガード社の超低コストファンドに資金がシフトしている「バンガード効果」を指摘する向きもある)ことが挙げられます。一方、ETFについては本コラムの②「ETFはなぜ成長しているか」で述べたように、多彩な切り口から多種のファンドが開発され、多くのファンドがそれなりの資金を集めている(従来型ファンドほどには低コストファンドへ資金が集中していない)と言えましょう。

上記の低コストファンドへの集中度の違いが、経費率の単純平均と加重平均の差の違い(従来型ファンドは0.62%と0.08%、ETFは0.49%と0.20%)に表われていると考えられます。

いずれにしても一般的にETFのメリットとして指摘される「低コスト」は、アメリカの株式インデックスファンドの場合、従来型ファンドとの相対比較においては必ずしも当てはまらない状況になっています。

[図表1]アメリカの株式インデックスファンドの比較(2018年現在)

 ファンド経費率残高、ファンド数、1ファンド当り残高
 単純平均資産額   
加重平均

残高
(百万ドル)

ファンド数(本)

1ファンド
当り残高
(百万ドル)

ETF0.49%0.20%2,663,9701,5101,764
従来型インデックスファンド0.62%0.08%2,654,0404196,344

[出所]ICI"2019 Investment Company Fact Book"より筆者作成

「マイナスフィー」のETFに資金は集まらなかった

アメリカでは、2019年に経費率ゼロのETFに加え、マイナスフィーのETFが出現しました。マイナスフィーは、ソルト・フィナンシャル社が同年3月に発足させた低ボラティリティ株式ETF(Salt Low truBeta US Market ETF )について採用したもので、「初年度に限り運用資産が1億ドルに達するまでの間、ソルト社が0.05%のフィーを投資家に支払う(ファンド資産に組み入れる)」というものです。

 同社の狙いは、一定規模以上のファンドを取り扱うことが多いと言われる証券会社のプラットフォームなど、既存のETF販売チャネルを飛び越えて、マイナスフィーという奇策により最終投資家にアピールしようとしたことにありました。

 しかし、発足から1年を経過した2020年4月中旬におけるファンド規模は1千万ドル程度に止まっており、メディアは「投資家もFA(フィナンシャルプランナー)も、ETF選択にあたりトラックレコードやブランドをより重視している」と伝えています。

「フィーよりポートフォリオ構成や機会コストが重要」という指摘

近年、ETFのフィー引き下げによる資金獲得競争が進んでいることに対し、専門家の中には「投資家が重視すべきことは、ベーシス単位のフィーの差ではなく、パーセント単位でパフォーマンスの差をもたらすファンドポートフォリオの構成(連動対象とする指数の構成方法やポートフォリオ組成方法)である」と指摘する声があります。

また、最近進んでいるETFの売買手数料無料化の動きについても、「投資家はわずかな手数料がタダになることより、証券会社に設けている口座の余裕金(投資待機資金)の運用利回りに注意を払うべきだ。もし得られるはずであった運用利益を年1%も失うとしたら、その機会コストは大きい」との指摘もあります。

(2020年5月作成)