世界ETF事情
2024年に史上最高の資金が流入した世界のETF【世界ETF事情㉑】
2025年2月7日作成
活況がつづく世界のETFは、2024年に史上最高の1.88兆ドルの資金が純流入し、年末の純資産総額(以下「残高」)は14.7兆ドルに達しました。
今回は、世界ETFの2024年の動向と2025年の注目テーマについてレポートします。
残高は2024年に27.6%増加
ETFの専門調査機関ETFGIによると、2024年末の世界ETFの残高は前年末より27.6%増えて14.696兆ドル(2024年末の1ドル157円で換算して約2,300兆円)に達しました。5年前と比べるとドルベースで2.3倍に拡大しています(図表1)。
一方、ファンド数も前年比1,325本、5年前比4,675本増加しましたが、残高の伸び率より小さかったため、1ファンド当たりの残高は2024年末に12.62億ドルとなり、5年前(9.00億ドル)に比べ4割拡大しました。
なお図表には載せていませんが、残高のETF設立地域別の構成を計算しますと、米国が7割を占めており、この状況は過去5年間変わっていません。
[図表1]世界のETF残高の成長
(出所)ETFGIデータにより筆者作成
残高増加額の6割を「投資家からの資金流入」が占めた
次に世界ETFの残高増加の要因を「投資家からの資金流入」による部分(以下「資金流入」)と、「組入れ証券の時価変動等」による部分(以下「時価変動等」)に分けてみますと、図表2のとおりです。
2024年は資金流入が史上最高の1.88兆ドルに達し、同年の残高増加への寄与率は59%となりました。言い換えると、時価変動という外部要因の影響が大きかった2023年(時価変動の寄与率が59%)と異なり、2024年は投資家の実需にもとづく内部成長要因が大きい、力強い成長となりました。
[図表2]世界ETFの残高増加の要因(単位:十億ドル)
[出所]ETFGIデータより筆者作成
アジアその他の資金流入が急増
資金流入についてETF設立地域別の推移を示すと図表3のとおりです。2024年は、どの地域においても資金流入が大幅に増加しましたが、特に米国・欧州以外の地域(=アジアその他)の増加が著しく、前年比増加率を計算すると、米国が94%、欧州が73%、アジアその他が105%となっています。
[図表3]ETFの設立地域別に見た投資家からの資金流入(単位:十億ドル)
[出所]ETFGIデータより筆者作成(アジアその他は、世界合計から米国・欧州を控除した値として筆者作成)
商品ではアクティブ運用型が増加
次に商品別の動きを見ると、アクティブ運用型の拡大が目立ちます。
ETFGIによると、2024年の世界のアクティブETFへの資金流入額は前年比2倍以上の3,743億ドルとなり※1、ETF全体への資金流入額の19.9%を占めました。また、世界全体のアクティブETFの残高は2024年末に1.17兆ドルに達し※1、同年末の世界ETF全体残高に占めるアクティブETFの割合は8.0%となりました。
地域別に見ると、米国では2024年のETF全体への資金流入額の25.8%をアクティブ運用型が占め、残高ベースでも年末のETF全体に占めるアクティブ運用型の割合が8.4%へ拡大しました※2。
一方、欧州では、2024年のETF全体への資金流入額に占めるアクティブ運用型の比率は7.7%、残高ベースでは年末のETF全体に占めるアクティブ運用型の割合は2.5%となっています※3。
※1 https://etfgi.com/news/press-releases/2025/01/etfgi-reports-assets-invested-actively-managed-etfs-listed-globally
※2Morningstar "US Fund Flows December 2024" p22掲載データにより計算
※3Morningstar "European ETF & ETC Asset Flows Q4 2024" p15
2025年の注目テーマ(米国と欧州)
以上のように、2024年は世界のETFが大躍進した年になりました。さて、2025年はどんな年になるのでしょうか。
米国、欧州について、それぞれ専門家の見方を紹介しましょう。
[米国]
米国に本拠を置く投資情報会社モーニングスターのETF調査チームは、米国のETF市場について2025年に起こりそうな出来事を予想しています※4。可能性の高い順番に上位5項目を挙げると次のとおりです。
①ファンド数でアクティブETFがパッシブETFを上回る
2024年のアクティブETFとパッシブETFのファンド数の増え方を比べると、アクティブETFがパッシブETFより424本多く増加した。アクティブETFとパッシッブETFのファンド数の差は2024年末現在で200本に過ぎないので、2025年中には逆転し、アクティブETFのファンド数がパッシブETFのファンド数を超えることになろう。
②ETFの償還が高水準でつづく
米国には3,900本以上のETFが上場されているが、残高が5千万ドル以下のファンドが1,100本もある。2024年には187本のETFが償還されたが、2025年は更に多くのETFが償還されることになろう。
③単一株式ETFが急増する
株式1銘柄を対象にして、デリバティブの利用により原株の値動きより大きな値動き、あるいは原株と逆の値動きを得ようとする「単一株式ETF」のファンド数は、2024年末に103本となり、1年前の51本から倍増した。対象銘柄としてはエヌビディア、テスラなどに人気がある。米国には数千の企業が上場されており、単一株式ETFは新設余地の大きい分野として、小規模運用会社などが参入してくることが予想される。
④世界最大のETFはSPYからバンガードのVOOに入れ替わるか
1993年に米国最初のETFとして誕生して以降、ステートストリートのSPY(スパイダー、正式名称「SPDR S&P 500 ETF」)は世界最大のETFの地位を保ってきた。2024年末の規模は6,240億ドルであるが、第2位のバンガードのVOO(Vanguard S&P 500 ETF VOO)との差は400億ドルに縮まっている。もし、VOO が2024年のペースで拡大を続けると、2025年夏にもVOOの残高がSPYを上回る可能性がある。
⑤従来型ファンドにETFクラスを設けることが実現する可能性がある
従来型ファンドにETFクラスを設けているバンガード社の方式が2023年に特許切れとなった以降、多数の投信会社がこの方式を認めるようSECに登録申請している。しかし、それが認められても、期待するような効果は生まないであろう。
[⑤について筆者補足説明]
米国では、ETFが税制面で従来型(非上場)ファンドより有利であること※5などから、従来型ファンドからETFへの資金移動が起こっていることは良く知られています。
そのため、従来型ファンドと同様の投資戦略をとるファンドをETFの形で新設する、あるいは、従来型ファンドをETFへ転換するなどの動きが続いてきました。しかし、バンガード社が2023年まで特許を持っていた「従来型ファンドのシェアクラスの一つとしてETFクラスを設ける方式」を採用できれば、ETFの新設やETFへの転換が不要であることから、多くの会社がこの方式を認めるようSECに申請しています。
SECは、一つのファンドに従来型クラスとETFクラスを併設すると、両者の間に利益相反が発生しないかなどの検討が必要であるとして、未だこの方式の新設を認めていません。
しかし、規制緩和を標榜するトランプ政権に変ったこともあり、このシェアクラス型ETFが実現するかもしれないとモーニングスターの担当者は見ています。ただし、仮にそれが実現しても、ETFの節税効果を十分に生かすには、従来型ファンドとは別建てにする方が良いのではないかと、この担当者は述べています。
※4https://www.morningstar.com/funds/6-etf-investing-predictions-2025
※5アメリカにおけるETFの税のメリットの詳細については本コラム第2回「ETFはなぜ成長しているか[世界ETF事情②]」において、インデックス型を前提に解説していますが、アクティブETFについても、現物拠出・現物交換型の場合、解約にともなう証券売却がないこと、銘柄入れ替えも現物の交換により行われ証券売却がないことによる税のメリットがあります。
[欧州]
欧州ETFの専門情報メディアETFストリームは、2025年の注視すべき欧州ETFのトレンドとして、次の5つを挙げています※6。
①個人投資家のETF保有促進(ドイツのETFセービングズプラン※7の欧州全域への拡大など)
②欧州ETF業界への新規参入の増大(米国勢をふくむ)
③分散化している欧州ETF市場の集約・統合化
④米国と異なる欧州の暗号資産規制への対応
⑤グリーンウォッシングとESGファンド新基準への対応
[筆者から一言]
欧州大陸諸国は米国と比べると、(イ)家計金融資産のうちに占める預金の比率が高い、(ロ)投信の販売は主に金融機関経由で行われており、独立性の強いFA(ファイナンシャルアドバイザー)の活躍度が低い、(ハ)個人投資家のETFの活用が進んでいないなど、日本と類似している状況にあります。
それだけに、欧州で上記のテーマ(特に①)がどのように進展していくかは、日本のETFの今後を考えるにあたっての参考となりましょう。
※6 https://www.etfstream.com/articles/five-etf-trends-to-watch-in-2025
※7ドイツのETFセービングズプラン(積立投資プラン)の詳細については本コラム第19回「ヨーロッパETF市場は2030年に4.5兆ドルに拡大か【世界ETF事情⑲】」をご参照ください。
記載されている個別の銘柄については、参考情報を提供することを目的としており、特定銘柄の売買などの推奨、また価格などの上昇や下落を示唆するものではありません。上記は過去のデータであり、将来の投資成果を示唆あるいは保証するものではありません。
(2025年2月7日作成)