ストラテジストのつぶやき~ETFで広がる投資戦略~

史上最高値圏にあるドイツ株(DAX)の行方は?

2025年6月4日作成

ドイツ株式市場は2024年以降に急伸し、史上最高値圏を推移中

トランプ米政権の関税政策などに世界が揺れ動く中、ドイツ株式市場(DAX)は順調に上昇して、史上最高値圏で推移しています。今回はこのドイツ株式市場(DAX)を分析してみました。

図表1はDAXの株価指数と12ヵ月先予想EPS(1株当たり利益)の推移です。2016年~2023年頃までは(①赤色シャドー部分)、株価指数と予想EPSが概ね連動していました(ドイツ長期金利が急上昇した②黒点線枠期間を除く)。しかし、2024年以降については(③水色シャドー部分)、予想EPSが概ね横ばいで推移してきたにもかかわらず株価は急上昇してきました。

いったい何が起こっているのでしょうか?

[図表1] DAXの株価指数と12ヵ月先予想EPSの推移

DAXの株価指数と12ヵ月先予想EPSの推移

期間:2016年1月4日~2025年5月26日、日次

(出所)Bloombergのデータを基に野村アセットマネジメント作成

ドイツ10年国債利回りは利下げ局面でも高止まっている

2024年以降、ドイツ株式市場(DAX)はEPSが伸び悩む中でも急伸してきましたが、金利マーケットを見てみるとECBによる利下げ転換が支えとなった可能性があります。

図表2はドイツ10年国債利回りとユーロ圏政策金利の推移ですが、ECBによる利上げは2023年9月が最後となり、その後、しばらくの据え置き期間を経て、2024年6月には利下げを開始しました。株式市場はこうした利上げ打ち止めや利下げ転換を好感した可能性はあります。

一方、ドイツ10年国債市場に目を転じると、ECBが1.75%ポイントも利下げしたにもかかわらず、10年国債利回りは概ね横ばいで推移してきました。ECBの利下げは支援材料ではありますが、EPSが伸び悩み、長期金利が高止まる環境下で、株価が急伸するというのは珍しいことです。何か特殊な要因があったのではないかと考えてみました。そこで、2024年以降にどのような業種や銘柄が大きく上昇したのかを見てみました。

[図表2] ドイツ10年国債利回りとユーロ圏政策金利の推移

ドイツ10年国債利回りとユーロ圏政策金利の推移

期間:2016年1月4日~2025年5月26日、日次
・ユーロ圏政策金利はECB(欧州中央銀行)の預金ファシリティ金利

(出所)Bloombergのデータを基に野村アセットマネジメント作成

2023年末以降の株価パフォーマンスは特定業種や特定銘柄群に支えられている

図表3はGICS業種分類で見たDAXの業種別パフォーマンス、図表4はDAX構成銘柄のパフォーマンス上位銘柄です(共に2023年末~2025年5月26日のトータルリターン)。

業種で見ると、資本財・サービスや金融、コミュニケーション・サービスなどがDAXを上回っており、銘柄では、シーメンス・エナジー(インフラ関連)やラインメタル(防衛・軍事関連)、各銀行(インフラ投資に恩恵あり)、ハイデルベルク・マテリアルズ(インフラ関連)などの特定の銘柄群がDAXを大きく上回っています。

ところで、ドイツには「債務ブレーキ」(新規債務による借り入れをGDP(国内総生産)の0.35%までに抑える)という財政規律のルールがあります。財政を抑制するように、基本法(憲法に相当)に基づくルールで、コロナ禍で一時的に停止されていましたが、2024年2月に再適用となりました。景気が良くない中での再適用であったことで連立政権内でも対立を生み、議会は解散に追い込まれ、2025年2月に総選挙が行なわれる運びとなりました。そして、選挙を経て「債務ブレーキ」が見直されることになり、防衛関連やインフラ関連などへの財政出動が緩められました。ドイツ金融市場では2024年のうちから「債務ブレーキ」の見直しが想定されていたようで、思惑先行で見直しによって恩恵を受ける関連株が大幅に上昇し、DAXを押し上げてきたと見ています。

米著名投資家のジョン・テンプルトン氏による相場の格言で、「強気相場は、悲観の中に生まれ、懐疑の中に育ち、楽観の中で成熟し、幸福感の中で消えていく」というものがあります。2024年以来のドイツ株式市場はまさにこの格言通りに推移しており、「債務ブレーキ」が見直された足元(2025年5-6月)はかなり後半ステージに位置しているように感じます。最後の「幸福感」がどんなものなのかはわかりませんが、心して相場に対峙するべき段階にあるのではないでしょうか。

[図表3] DAXの業種別パフォーマンス(トータルリターン)

DAXの業種別パフォーマンス(トータルリターン)

期間:2023年12月末~2025年5月26日、トータルリターン
・業種区分はGICS業種分類(世界産業分類基準)

(出所)Bloombergのデータを基に野村アセットマネジメント作成

[図表4] DAX構成銘柄のパフォーマンス上位(トータルリターン)

DAX構成銘柄のパフォーマンス上位(トータルリターン)

期間:2023年12月末~2025年5月26日、トータルリターン

(出所)Bloombergのデータを基に野村アセットマネジメント作成

記載されている個別の銘柄については、参考情報を提供することを目的としており、特定銘柄の売買などの推奨、また価格などの上昇や下落を示唆するものではありません。上記は過去のデータであり、将来の投資成果を示唆あるいは保証するものではありません。

<関連銘柄>
NEXT FUNDS ドイツ株式・DAX(為替ヘッジあり)連動型上場投信(証券コード:2860)

(2025年6月4日作成)

野村アセットマネジメント
シニア・ストラテジスト

阪井 徹史

Tetsuji Sakai

1988年以降約20年間、野村アセットマネジメントにて主に日本株のアクティブ運用業務に従事。その後、グローバル・ストラテジストとして、世界の様々な市場の分析や投資アイデア提供活動を継続中。

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